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「第4回 製品に潜むリスクと警告ラベルの関係性(Part 3)」

2020年4月20日発行

「第3回 製品に潜むリスクと警告ラベルの関係性(Part 2)」では、残留リスク情報を抽出するために実施するリスクアセスメントについてご紹介しました。第4回では、3ステップメソッドを使用したリスク低減方策について解説します。

 

リスク低減方策(3ステップ)

リスクアセスメントのリスク評価の結果を基に、リスク低減方策を立案することについては、第3回でも少し説明しました。ここでは、リスク低減方策の立案方法について、もう少し掘り下げて説明します。

リスクの低減は、「ISO 12100:2010 機械類の安全性-設計のための一般原則-リスクアセスメント及びリスク低減」で定められている「3ステップメソッド」と呼ばれる方法を使用します。3ステップメソッドは、以下の図のようにリスク低減のためのステップが3つ用意されており、ステップ1の本質的安全設計方策から順次検討していきます。

■ ステップ1 本質的安全設計方策

「ISO 12100:2010」の「6 リスク低減」では、「本質的安全設計方策」を以下のように定義しています。

ISO 12100:2010 6.1 ステップ1
本質的安全設計方策は、機械自体の設計側面の適切な選定及び/又は暴露される人々と機械との相互作用によって危険源を除去するか又は関連リスクを低減する。

中央労働災害防止協会「機械設備のリスクアセスメントマニュアル」では、具体的な本質的安全設計方策として、以下のものを挙げています。

(1) 非制御的な本質的安全設計
① 危険源そのものをなくす
② 危険源のエネルギーを人に傷害を与えない程度に低減する
③ 危険源への暴露をなくす。頻度、時間を低減する
④ 人間工学的な本質的安全設計その他

(2) 制御的な本質的安全設計
⑤ 制御システムの本質的安全設計

例えば、モーターによるやけどの恐れが考えられる場合、
・適正な温度以上に上昇しないモーターに変更する……②に該当
・遮熱カバーをモーターに取り付ける……③に該当
・過熱保護装置を付け、モーターが高温にならないように制御する……⑤に該当
といった対策を行います。

このように、本質的安全設計方策は、設計レベルでリスクの除去または低減を検討していくものであり、最初に行うべき有効的な安全方策です。

 

■ ステップ2 安全防護/付加保護方策

「ISO 12100:2010」の「6 リスク低減」では、「安全防護及び/又は付加保護方策」を以下のように定義しています。

ISO 12100:2010 6.1 ステップ2
本質的安全設計方策を使用して危険源を除去すること、又は関連リスクを十分に低減することが実際的には可能でない場合は、リスクを低減するために、意図する使用及び合理的に予見可能な誤使用を考慮して適切に選定された安全防護及び付加保護方策を使用することができる。

 

安全防護方策と付加保護方策は同じステップとしてまとめられていますが、付加保護方策はその名前のとおり、あくまでも「付加的」な方策です。本質的安全設計方策と安全防護方策が「人の行動に頼らない(機械側で行う)」方策であるのに対し、付加保護方策は「人の行動に頼る」方策となります。

安全防護方策
安全防護方策には、カバーや柵などで物理的に危険源へ人が近づけないようにする「ガード」と呼ばれるものと、インターロックやライトカーテン(人が危険源のそばに侵入したことを光学的に検知する装置)のような「保護装置」と呼ばれるものがあります。もし、ガードが外れたり、保護装置が故障したりすると、危険源が暴露されるため、機械自体の危険源はそのまま放置され、本質的安全設計方策よりも安全性能が劣る結果となります。しかし、危険源との距離を十分に確保したり、腕が入らないように柵の間隔を狭くしたりするなどの本質的安全設計方策も考慮することで、高い安全性が確保できます。

付加保護方策
付加保護方策には、非常停止スイッチの設置、電源スイッチに鍵を掛ける「ロックアウト」と呼ばれる作業の義務付け、火災や爆発が発生したときの避難路の確保などが挙げられます。いずれも人が意識的に行うものであるため、リスク低減の効果は人に依存することになります。緊急時に適切な行動が取れるとは限らないため、あくまで補助的な安全方策となります。

■ ステップ3 使用上の情報提供

「ISO 12100:2010」の「6 リスク低減」では、「使用上の情報」を以下のように定義しています。

ISO 12100:2010 6.1 ステップ3
本質的安全設計方策、安全防護及び付加保護方策の採用にも関わらずリスクが残留する場合、残留リスクは使用上の情報において同定しなければならない。

 

ステップ1とステップ2で十分にリスクが低減されたことを前提に、正しい使用方法、製品の使用範囲(決定された機械類の制限)、残留リスク、機械の状態、推奨される保護具などの情報をユーザーに伝える必要があります。その伝達手段として、表示、標識および警告文(例:警告ラベルなど)、信号および警報装置、附属文書(例:マニュアルなど)などがあります。

ステップ3は最終的な安全方策ですが、ステップ1とステップ2の代替策ではありません。つまり、使用上の情報を提供することで、設計上の不備を補うことをしてはならないのです。ステップ1とステップ2で十分にリスク低減を検討した上で、どうしても残ってしまったリスク(残留リスク)に対して、ユーザーに情報を提供するものという意識を持つことが必要です。

当社では、警告ラベルの他に、マニュアル制作サービス、規格適合サポート、安全規格のセミナーなどの『製品安全サポートサービス』を提供しています。

警告ラベルを使用したリスク低減

ここで、ステップ3の伝達手段に含まれる「警告ラベル」を使用したリスク低減について説明します。

リスクアセスメントを実施した場合は、リスクアセスメントシートとして文書にする必要があります。リスクアセスメントシートには、製品に潜在する全てのリスク、低減方策を行う前の「リスクの見積もり」とレベル、立案したリスク低減方策、低減方策実施後の「リスクの見積もり」とレベルを記入します。警告ラベルは、リスクアセスメントシートに基づいてその内容と貼り付け場所を検討します。

 

警告ラベルは、潜在するリスクの全てに対して貼り付ける必要はありません。ステップ1やステップ2によって危険が低減され、人が危険源に接近する確率がゼロであれば、ユーザーに注意喚起しなくても安全が確保できると判断されます。

それでは、どのような場合に警告ラベルを貼り付ける必要があるのかについて、以下の例を基に考えてみましょう。

ユーザーの誤使用により、保護カバーが外れてしまうというリスクがあった。
 ↓
リスク低減方策により、保護カバーが外れると同時に機械が停止するようにインターロックを取り付けた。
 ↓
インターロックにより、回転部や高温部の動作を停止させることができた。
 ↓
回転部が完全に停止しない、または高温部の熱が完全に冷めないといったリスクが残った。
 ↓
保護カバーが外れた状態で、人が危険源に接近することが考えられた。

この場合、けがをする恐れがあるため、保護カバーに「回転部注意」や「高温部注意」などの警告ラベルを貼り付ける必要があります。

■ 国際規格で規定されている警告ラベルの例

ISO、IECなどの国際規格においても、警告ラベルの内容に言及しているものが多くあります。
その中でも「ISO/IEC GUIDE 51:2014 安全側面―規格への導入指針」では、「警告」として以下のように定義されています。

ISO/IEC GUIDE 51:2014 7.4.2.3
製品安全の標識及びラベルは、関連する法的な要求事項及び規格(例えば、ISO 3864、ISO 7000、ISO 7001、ISO 7010、IEC 60417及びIEC 82079-1)に適合していることが望ましく、全ての使用を意図する全ての国において、最終使用者に分かりやすいものであることが望ましい。

警告の内容は、警告を無視した場合の、製品のハザード、ハザードによってもたらされる危害、及びその結果について記載することが望ましい。効果的な警告は、製品のハザードに適したシグナル用語(例えば、“危険”、“警告”、“注意”)、安全警報標識、書体の大きさ、及び色の組み合わせによって、注意を喚起する。

 

各国際規格では、警告ラベルの構成要素(シグナルワード、文字メッセージ、シンボルマーク、フォーマットなど)について厳密なルールが存在しています。

次回は、「一般的に要求されている警告ラベルのデザイン」について説明します。


(参考文献)

  • 中央労働災害防止協会「機械設備のリスクアセスメントマニュアル 機械設備製造者用(平成21年度 厚生労働省委託 機械包括安全指針に基づく機械設備に係る表示制度、使用上の情報提供等の促進事業)
    https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei14/dl/100524-1.pdf

この連載記事は、お客さまの警告ラベルへの理解を深め、ご活用いただくためのものです。この内容に基づいて生じた事故や損害について、当社は一切の責任を負いません。あらかじめご了承ください。